相続の経験をまとめます。

老親を亡くした後の手続き、相続のトラブルや様々な経験を通し、知恵をまとめます。記事のリストは上のタイトルをクリックしてください。

(A010) 老親を持つ人へ 生前に行っておきたい準備(その2財産関係) 経験より語る

※2022.01.19記事追記

今回は、A006の記事に続く第2弾として、財産関係でやっておくべきものをまとめます。(長文です)

 

 

親が亡くなってからの手続きの数は多く、働いている身には重圧となります。
私の場合、金融機関への届け出、遺産分割協議にこぎつけるまでの財産調査、母の年金手続きは私が行いました。


財産に必要な調査事項は、可能な限り生前から調査を始めることをお勧めします。

しかしそう簡単ではなく、実際自分は出来ませんでした。皆さんの場合に可能な範囲を広げられたらと思い、私はこれをまとめています。

財産調査は専門家に任せることも考えられますが、どこまで可能なのか、手数料はどのくらいなのかは私にはわかりません。

私の事例では、財産調査は自分で行いました。その後遺産分割協議が決裂したので弁護士と契約し、母の成年後見人付けとその後の遺産分割協議解決までの一連を依頼しています。

この部分での出来事は将来書きたいと考えています。

 


1.ポイント

 

 A 親の財産の有り場所を把握しておく(両親とも)。

 

そのために、
・親の持つ通帳を把握する(銀行名だけでも)
・親のところに来る郵便物を把握しておく。
・ネット取引を行っている場合はその把握が必要。
(どこの銀行と取引しているかだけでも。どこの銀行からメールが来ているかなどから)
・両親とも把握しておくこと。
・名義預金(後程説明します)の可能性がないかを調査しておくこと。


理由;親が亡くなった後の手間がとにかく減る。
把握できない財産を減らせる。
両親ともに財産をある程度持つ場合、片方の親の財産しか知らないと遺産分割割合へ影響したり、追徴課税される場合がある。

 

 B 加入している保険を把握する(両親とも)。

 

理由;入院、死亡時の届出先の把握ができる
無駄な保険の把握と解約ができる可能性がある。

 

 C 不動産の相続の方向性について、想定される事例ごとにメリット・デメリットを考えておく

 

理由;相続を最終的にどのように進めていけば相続人全体や自分にとってベストなのかを予め考えられる。
不動産の相続、その後の売却、相続する人などで起こりえるリスクを予め把握できる。
それにより、遺産分割協議をあわててまとめてしまい、誰かが不利になってしまうことを防ぐ。

 

 D 親の家の家屋特性を把握しておく


理由;物件によっては売却しにくい場合がある。古い家が放置され、荒れ果て、その責任を負わざるを得ない事態を防ぐ。

 

 E 葬儀代等の費用を確保しておく※注意事項あり。


理由;遺族による葬儀費用の立て替えを防ぐ。

 

2.説明と具体例

 A 財産調査


親の葬儀が終わると、遺産分割協議を始める必要があります。
このためには、まず最初に親の財産の全体を把握する必要があります。

財産調査は、銀行の場合は遺族の情報をもとに1行ずつ調査することになります。専門家に任せるにしてもこの情報がもとになります。

 仮に協議が終了した後に別の財産が見つかれば、何らかの再協議が必要です。この時、「今までと話が違う」「前回決めた内容はやっぱり納得できない」などの蒸し返しが起こりやすいと思います。

親の財産を把握する上でまず思い浮かぶのは、まず銀行等の通帳ですが、すべてが揃っていない場合がありえます。通帳の紛失、長期間取引していない銀行の存在がありえます。これらをできるだけ把握するために、郵便物などのチェックで少しでも把握していく必要があるのです。
私の場合、親が認知症となったせいか、印鑑はすべて紛失、通帳なども半分以上は紛失しました。また、古い銀行名のキャッシュカードが出てくることもありました(おそらく昔の給料口座だったと思われます)。
口座を見つけられない=永遠に見つけられない、となりますので可能な限り把握しましょう。両親ともです。

親へ届く郵便物からわかることを例示します。
・銀行、郵便局等→お金の預け先、借金、ローン
・証券会社等→証券等の保管先
・固定資産税通知書等→不動産の所有
・クレジットカード使用明細→年会費他定期的な支出
・ゴルフ場年会費→ゴルフ会員権
・霊園の管理料→生前に墓を購入し、管理費を払っているかもしれない

 

最近はネット化、ペーパーレス化が進んでいます。加えて、ネットで完結する金融機関もありますので、例えばプリントアウト・保管してある紙、受信メールも考慮に入れなければならないでしょう。

残された親にある程度の財産がある場合、これを知らずに遺産を分割すると、残された親へ多目に配分されてしまい、 2次相続(残された親が亡くなった時の相続)の時の相続税に影響する可能性もあります。


私の場合、一旦は遺産を全て母に寄せると考えとしましたが、母の資産状況と建屋のリスク(のちに説明)を知ることにより協議案をやり直すことになりました。

 

調査しておくべきと考える重要なことを1つ。(※参考情報です。この項は当方がネットで調べた情報です。私の経験ではありません。)
例えば、専業主婦が多額の預金を持っている場合は、夫が妻名義で貯金したことが考えられます。これは「名義預金」と言われ、夫の財産とみなされます。確実に税務署が把握するとの事ですので要注意です。

ちなみに「名義預金」の時効はありません。これは知らない人が多いと思います。
もしあれば夫の遺産とすれば問題ないのですが、漏れがあると追徴の対象となる可能性があるので重要です。


私の事例では、母名義の預金がある程度ありました。しかし、以下の点から問題ないと考えています。
・母も働いていた。
・母の過去3年間(しか調べられない)に父からの入金記録がない。
しかし、税務署からの問い合わせがないか、父の死亡後10か月(相続税申告期限)を超えた今でも心配しています。

 

また、夫婦で築いた財産だとしても、口座の名義人が父の場合、法律的には父の財産と位置付けられ、父の死後、相続の対象となることも念のため記載しておきます。

 

 B 保険について


両親が加入している保険の会社名や内容を把握することにより、以下がわかります。
・存命中の入院時などにの保険金請求先(漏れをなくす)
・死亡前の医療費請求と死亡届の提出先
・保険金の受け取り人(遺産分割に関係する)
・証券を紛失した保険の有無
などがわかります。
これは、保管されている証書、または定期的(1年ごとが多いようです)に保険会社から送られてくる加入内容説明で把握すればいいと思います。

 

 

加えて、保険に入りすぎていないでしょうか。自分の例では、両親は計6つの保険に加入し、保険料を払い続けていました。
母は、生命保険と共済をダブって加入していました。


自分の例で盲点だったのは、クレジットカードと、それに付随する保険です。初年会費と保険料が無料だからと気軽に加入し、解約せずにその後カード年会費と保険料を払っているものを見つけました。このように、両親の入っている保険の把握は必要と考えます。

 

また、老親にどこまでがん保険は必要か?健康保険の負担上限、高額療養費制度もあり、さらには(ひどい言い方だが)そこまでして生きることを本人が望むか。などを考えてこの際整理するのもいいかと思います。加入している保険の適切化、請求漏れ防止、そして費用の節約は必要と考えます。


保険の解約手続きについての経験は別の機会に詳しく述べます。

 

今まで保険の契約内容は、契約した人しか知ることができませんでした。しかし、最近は親の保険(契約ごと)について親族を指定して内容の確認や契約変更ができる制度があるので、重度の認知症になった時に備えて子供でも管理できるようにしておくことをお勧めします。※この手続きは、契約者の承諾と署名が必要です。

 

※2021.10追記

「生命保険契約照会制度」というものができたようです。新聞記事によると、親や家族の死亡、認知症による判断能力の低下の際にこの制度を使えば加盟社に一括して契約を確認できるとのことです。

この制度は有料ですが、災害にあった場合は無料との事です。(追記終わり)

 C 不動産

不動産の名義人が死亡した場合、その不動産をどのように相続するのか。想定される事例ごとにメリット・デメリットを考えておきましょう。この段階では素人考えではありますが、その後専門家の意見を聞きながら修正していく段階で初めて考え出すよりも良いと思います。

親が亡くなった後から相続税の申告期限までの10か月間で相続人全員で納得する内容にまとめあげる必要があります。不動産以外の財産も含めてですので、長いようで意外と短いものです。

 

相続人それぞれの立場でのメリット・デメリットが違ってくるでしょう。兄弟間それぞれ持っている感情もあります。自分に都合がいい内容で済むことはないはずです。


相続を最終的にどのように進めていけば相続人全体や自分にとってもベストなのかを少しでも事前に考えておくことは必要かと思います。

 

具体的にどのようなことが考えられるのか、参考までに自分の例(亡父が不動産の名義人)を記載します。
(この考えに至る背景は記事A001~A003を参照ください。)

 

①母が相続
メリット
・遺産分割協議に波風が立たない。
・兄にとっては今後の住まいを獲得できる。
・何らかの理由で母(現在グループホームに居住)が実家に戻る必要がある場合帰る場所が確保できる。


デメリット
・母は認知症なので、売却時に承諾が取れず、売却は事実上不可能。
・2次相続時(もう片方の親が亡くなった時の相続)に再度登記の手間と費用が必要。

・2次相続後に売却しても得る金額は少ない(築40年以上)。
・母が実家に帰る場所はあるものの、その時点で兄が受け入れるかは未知。
グループホームの職員の話によると、病気療養でグループホームから退去する必要があっても、然るべき受け入れ先を探して転入することになるので、少なくとも現在は実家に帰ることはない場合が多いとの事。これは、後に母の後見人からも聞いた。)

 

②兄が相続
メリット
・兄にとっては今後の住まいを獲得できる。
・そのため、遺産分割協議に波風が立たない。


デメリット
・私にとって、上記兄のメリットに見合う対価を協議で得る必要がある。これを兄が理解できず、説得するのが困難。(パラサイトは、家を確保することの大変さを理解できない)
・母が何らかの理由で実家に帰る場合、その時点で兄が受け入れるかは未知。
・兄が今後孤独死した場合、その不動産と後処理費用を負う。それはおそらく私か私の息子になる。

 

③私が相続
メリット
なし。私にはすでに持ち家があるので更なる不動産(価値がない)は不要。


デメリット
・兄が住み続けるので家賃請求できるが、実現できるか疑問。
・私の一存で売却できるが、築年数ゆえ対価は少ない。兄を退去させる必要がある。
よって、兄が受け入れる可能性が低い。

 

④遺族で共同所有(法の原則の割合で分割)


メリット
・兄にとっては今後の住まいを獲得できる。そのため、遺産分割協議に波風が立たない。

デメリット
・共有名義である不動産をまるごと売却するためには全員の承諾が必要。将来これがスムーズに行えるとは限らない。自分の場合、母は認知症なので事実上困難。

ただし、自分の持ち分のみの売却ができる(売却先や条件は要検討)ので、これを行えば自分の法的責任は解消できる。(将来記事化します)
・兄が住み続けるので私の持ち分相当は家賃請求できるが、家賃相場から考えて得る金額は少ないし、実現するか疑問。

 

以上は私の例です。私の有利なものは兄にとって不利。そしてその逆もあります。ましてや、兄弟間だけで話し合って決めるのは難しいです。


不動産は共有名義にするのは楽だが、あとが大変。


皆さんの時はどのようなことが考えられるのかは予め考えておいて損はありません。親の死後慌てて結論付け、その結果誰かが損をしないようにする必要があると思います。

 

 D 家屋特性

私の例で説明します。
私の両親の家はテラスハウスという呼ばれる構造です。土地は個別所有ですが、建屋は6軒長屋という構造となっています。

この時、1軒だけ解体して更地にすることができない。つまり、古家となっても容易に更地にできないという不都合があることがわかりました。加えて、築40年も経っているので容易に売却できないことは明白です。


よって今回の相続の時に母へ相続しないこととし、以下のいずれかの方向で進めるべきと私は考えました。
・今のうちに売却する
・現在居住中の兄が相続し、以後の責任を持ってもらう

 

仮に兄が相続しても、兄が孤独死で1か月後に発見され、築40年以上の建屋とその中身すべても放置されてから遺族へ相続、片付け費用を負担、なんていう事態はなんとしても避けたいと考えています。

よって、この件も何らかの形で遺産分割協議書に反映させておく必要があるのです。


私の例では、兄はこの考えを理解しようとしません。この点も兄弟間の相続がまとまらない要因の一つです。

 

 E 葬儀代の確保 ※注意事項あり

 

親が亡くなった時、葬儀代等を行える程度のお金は必要です。しかし、可能な限り遺族による立て替え、持ち出しは避けたいでしょう。
そのためには、亡くなりそうな人の財産から残される親へ財産を移動する(葬儀代等が目的)ことは、細心の注意が必要とはいえ検討する価値はあると思います。


しかし、生前に財産を移動することは、他の相続人たちに疑われるかもしれませんし、税逃れとして追徴課税されることも何としても避けなければいけません。

 

この件は私の事例の経験はありません。しかし、素人考えですが、目的、実際に行った金額とその用途などを明確化し、遺産分割協議の時に必ず提示することを行えば、それは可能なのではと考えます。
この件は自治体での税理士、弁護士相談などで相談してみるのが良いと思います。税務相談なら建前一辺倒ではなく、現実論でアドバイスしてくれると思います。費用は無料の場合が多いです。(予約は取りにくい)


私は、この件以外で法律相談を利用したり、司法書士に相談をした経験がありますが、
私の事情を理解したうえで現実的な対処を示唆してくれました。

もし親が認知症の場合は銀行に相談しないでください。親が認知症と知られれば、そこで口座が凍結される可能性もありますし、認知症でなくても銀行に管理を任せると、その後の様々なことで手数料ばかり取られることにつながります。

 

2021.09.07記事追記

書籍「相続で絶対モメない遺産分割のコツ 言葉・空気・場の読みまちがいが命取り!」
の記載では、親が死亡してから銀行へ届け出を出す前までに預金を引き続きおろすことについて記載しています。

 

これを行う場合の注意点は上記の本に記載されています。

このやりかたはシンプルですが、

・これを行うと相続放棄はできなくなる。故人に借金がある可能性の時は要注意となる。
・もし行うなら、親に了承をもらったうえでキャッシュカードと暗証番号を預かる事が必須となります。
通帳、印鑑があっても本人がいないと引き出し出来ませんので。


または、JAバンクの口座で代理人指定を行っておいた場合は引き出すことができると思います。(記事番号A007 項目4参照)

 

nanahei.hatenablog.com

 

※この項、2022.02.10追記

3.親の遺産調査はコソコソやらないこと


以上の作業は、財産を独り占めするのではなく、親の死後に自分たちの手間とお金の立て替えを減らすことが目的です。

これを両親と相続人になるであろう人たちに明確に説明して理解してもらい、記録を残す必要があります。こじれた場合、遺産を独占しようと思われ、いらぬ難航を引き起こすかもしれません。

 

親の生前に親、そして兄弟に話を切り出すことは難しいでしょう。しかしもし実現できたら後が楽ですし、把握したことでの不明点を生前や葬儀で他の人たちと会ったときに確認できる可能性があります。


私は、税に詳しい知人に「可能なら、生前に資産を把握したほうが良い」と言われていましたが、父が亡くなってからスタートさせました。

しかし、母は認知症であるし、兄は私に任せっ切りだったので、実家のあらゆる資料を自分の手元に持って来ることが出来ました。こんなにスムーズに調査ができたのは珍しいのかもしれません。

 

実現が難しいとはいえ、何らかのタイミングを逃さずに提案出来たら非常にラッキーです。以上のことは認識しておいてください。

 

 

4.最後に


以上まとめてみました。以上の記述は自分中心で金の事しか考えていないような記述になっています。自分でもそう思います。


しかし、これらは確実にやってきます。
その時に少しでも手間が減り、

故人への思いを大事にしながらお別れできるように。
ましてや、亡くなった人に対し、「迷惑かけやがって」などと思ってしまう事の無いように。
また、手続きで会社を休む回数を減らせるよう。
皆さんにそうなって欲しいと考えています。

繰り返しですが、親の生前にこのような話を切り出すのは難しいです。

理想論かもしれません。

でも、それを切り出せたらどんなにラッキーでしょうか。

 

 

5.その後の話を少し


親が亡くなった時には、葬儀のことはともかく、相続のことを考え始めた方がいいと思います。葬儀が終わってからではなくて。
なぜなら、葬儀は業者と葬儀の内容を決めればあとは業者に従えばいいからです。


故人への思いは大事ですが、自分たちが困り果ててしまうことは避けたい。それは故人もわかってくれると思います。


少しでも相続の事を考えられていれば、兄弟等関係者が集まる時は、不明点などを直接確認できるまたとないタイミングです。これは活用したいものです。

相続のことに限らず、重要なことを電話で話すことは誤解されることも多くなると思います。
財産を独り占めしようと誤解されないようにする必要はありますが。

 

私は、親の死亡の翌日朝一で書店へ向かい、相続についての書籍を買いました。
葬儀の段階の空き時間を利用して役所手続きと相続の流れを知り、

具体的に考える事を少し早くできたことと、

手続きの手間をほんの少しだけ減らせました。

皆さんにはもっとできるようになってほしいと考えています。

 

このブログが少しでも皆さんのお役に立てることを願っています。

 

「相続で絶対モメない遺産分割のコツ 言葉・空気・場の読みまちがいが命取り!」

という本があります。ぜひ参考になさってください。

 

また、この本を説明した記事もありますので、そちらも参考にしてください。

 

 

※このブログの記事について、読んでいただきたい順番(カテゴリ毎)にリンクを並べたページはこちらです。こちらを起点として各記事をお読み頂くとよいかと思います。

 

nanahei.hatenablog.com